院長コラム
日韓共同フォーラム「メディア中毒」からの脱出
平成24年2月18日、19日に福岡で行われたNPO法人子どもとメディア主催の“子どもとメディア日韓共同フォーラム「メディア中毒」からの脱出”に参加してきました。
近年の電子映像メディアの発達は、私たちの生活を便利で豊かなものにしています。その一方で、子どもや若者の一部は、「ケータイ依存」「ゲーム依存」「ネット依存」に陥り、生活の大部分の時間をそのために費やしています。実体験の著しい減少は、子どもや若者の心身の成長に多大な影響を及ぼします。コミュニケーション能力が低下したり、不登校や引きこもりにつながったり、家族の中でそうした依存状態をめぐって深刻なトラブルを引き起こしたりもしています。
IT先進国の韓国では、21世紀に入って「青少年のネット依存」が社会問題になるといち早く、国をあげて対策に取り組み始めました。
韓国では、急激なインターネットの普及により、子ども、若者がネットゲームにはまり、勉強しなくなり、睡眠時間が減少し、生活が乱れてきました。そして2002年、ネットゲームをめぐって兄が弟をハンマーで殴り殺すという事件が起こりました。韓国政府は若者のネット中毒に危機を覚え、同年、公立のネット中毒対応センターを開所、実態調査を行い、その対策に取り組み始めました。その後国内全域に相談センターを設立。2011年10月からは「シンデレラ法」と呼ばれる法律が施行され、16歳以下の子どものネット接続は24時で強制的に遮断されることになりました。「2010年ネット中毒実態調査」の結果によれば、ネット中毒者数は年々減少傾向にあります。今後も、スマホの普及などの変化に対応した対策の継続が必要です。
韓国の対策の1つであるネットレスキュースクール事業を紹介します。
ネットRESCUEスクール
「ネットから離れ新しい自分を発見するキャンプ」という意味であり、
- R (Re experience)キャンプでの新しい経験を通じて
- E (Excitement)ワクワク・ドキドキするような気持ちを感じ、
- S (Socialization)友達・Mento先生・スタッフたちとの社会的関係を形成し、
- C (Change)変化のためのチャレンジを始め
- U (Union)バラバラになった家族が再び一つになる意味を含み、
- E (Escape)ネット中毒からの開放 をいう。
韓国では、各種の有害なメディア情報や暴力シーンがフィルターを通さずに流され、匿名を利用して各種の誹謗中傷が溢れ、ゲームの中の仮想現実にのめりこんで情緒的反応を奪われた青少年問題が日々深刻となりました。これによる家族間の葛藤、模倣犯罪、攻撃的行動が青少年文化の中に蔓延しているのが現状です。このような問題を少しずつ改善していくために2007年から全国的に実施されたのが11泊12日の寄宿型治療プログラムであるネットレスキュースクール(キャンプ)です。これは相談治療、体験・レクリエーション、家族活動が組み込まれている多面的文化プログラムです。治療的環境の提供はもちろん、ネットに替わる様々な代案活動を経験することで、子どもたちがそれぞれのストレス解消法を探していけるように手助けをします。
キャンプ期間中子どもたちは携帯電話だけでなく、電子メディアやお酒、タバコを一切許されません。お金及び貴重品は所持しないようにします。キャンプ期間中、Ment(兵役を終えた有給ボランティア大学生)たちは1~2名のMenti(子ども)とチームを組み、ずっと行動を共にします。1人がトイレに行くときは、他のチームメイトも一緒に行き待っています。「人のために待つ」という経験も大事です。
プログラムの中には、子どもたちが普段経験する機会の少ないダイビングやクライミングなども用意されています。長い時間パソコンゲームにさらされた子どもたちの現実感覚は予想以上に低く、Mentoたちは実際の軍隊での経験などを聞かせて仮想世界の虚構性を理解させようともします。
キャンプが追求する目標は、実際大げさなものではなく、「普通の日常への復帰」であり、それ以上でも以下でもありません。パソコンテーブルの前に置かれていた食べ物を家族のいる食卓に戻し、昼間にとっていた睡眠を夜の時間帯に戻し、ゲームアイテムを買うために使っていたおこづかいを友達とおやつを買うためのお金に戻すなど、忘れていた「自然な状態」を再び思い出させることが、子どもたちに最も必要なことでした。
キャンプに参加した15歳男子のネット中毒脱出体験記(一部を抜粋)
そのときの私はネットゲーム中毒だった。が、その自覚はなかった。私は毎日パソコンでゲームをしていた。パソコンをしていないと不安に感じるほど中毒は深刻になっていた。(パソコンゲームは毎日6・7時間、それ以外にもスマホでゲームをしていた)毎日をそんな風に過ごしていたとき、新聞でゲーム中毒に関する記事を見た。初めてゲーム中毒のことを知り、ゲーム中毒を治療するためのキャンプがあることを知った。すぐにそのキャンプのことを母に調べてもらい、参加を決めた。
11泊12日のキャンプで色んな活動をした。規則正しい食事、体育活動、ボードゲームなどはネットゲームへの思いから私を離れさせ、次第に忘れさせてくれた。定期的な個人相談、集団相談も受けた。
キャンプの中で最も良かったことは仲間と一緒にする体育活動だった。私はここでバスケットボールの楽しさを知り、キャンプから帰った後も続けている。
キャンプが終わり、私の心と考えは変わったと思う。キャンプが終わって帰って来た日とその次の日まで、私は一度もパソコンを使わなかった。今も1日2時間以上はゲームをしない。私は今までネットゲームに無意味な時間を使ってしまったことを後悔している。ネットゲームという毒が私に与えた影響は大きく、それを回復するのにこれからも少なくない時間がかかると思う。しかし、キャンプに参加し、私には達成したい夢(医師になること)もできた。キャンプに出会えたことは、私にとって大きな幸運だった。
日本でも韓国で起きたような事件がいくつも起きていますが、国の取り組みとしてのメディア依存の実態調査、予防、対策は何も行われていません。しかし市町村や学校などの中には独自に調査、予防等を行っているところがあります。福岡県福津市では受診率が9割を超える乳幼児健診(4ヶ月、1才6ヶ月、3才健診)でメディア依存防止の啓発事業を行っているそうです。また今回のフォーラムに参加されたある精神科クリニックではすでに1000人を超えるメディア依存の患者さんを治療したそうです。
子どもたちをメディア依存から守るために、私たちクリニックスタッフも日々勉強し、少しでも多くの情報をみなさんにお伝えしていけるよう頑張っていきます。
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