症状一覧

2011年06月01日症状一覧

食中毒(病原性大腸菌)

蒸し暑い季節がやってきました。この時期には食中毒が増えてきます。つい最近も、焼肉屋さんでのユッケを食べて発生した痛ましい集団食中毒がおこってしまいましたね。

食中毒をひきおこす原因としては、サルモネラ菌、病原性大腸菌、ブドウ球菌、キャンピロバクター、腸炎ビブリオ、などの細菌、ノロやロタなどのウイルスなど、多種多様な原因があげられます。

今回は、病原性大腸菌についてお話します。

 

大腸菌は、通常でも腸の中に存在し、ほとんどの場合無害な菌ですが、中には毒素を出したり、腸に炎症を起こしたりするものがあり、病原性大腸菌と言われています。
そのうち、腸管出血性大腸菌とよばれるグループは、ベロ毒素と呼ばれる強毒の毒素を産生し、重症の出血性の下痢、腎不全・脳症・溶血などの溶血性尿毒症症候群(HUS)をひきおこすことがあります。O-157・O-26・O-111などの菌があります。

 

感染経路
病原性大腸菌は、主として家畜の腸管内に存在し、肉類、土壌、野菜などを介して人に感染します。井戸水、仕出し弁当、ハンバーガーの肉、生肉(ユッケやレバ刺し)、生野菜などが原因で集団食中毒が発生しています。また、感染した患者さんの便から他の人へ感染する2次感染も発生します。非常に少ない菌量(50コほど)で、感染が成立(病気が起こされる)するため、2次感染もおこりやすいのです。
この数年では年間に4000人ほどの患者さんが発症しています。

症状
症状としては、軽い下痢、激しい腹痛と水様便、著しい血便から死に至る合併症を起こすものまでさまざまです。血便は著しく、強い腹痛とともに、便というより血液そのものが出てくる、という感じになることがあります。
合併症として、ベロ毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)という大変重篤なものがあります。腎不全、けいれん、意識障害、溶血、多臓器不全などの症状が出てきて、死亡することもあります。

診断
病原性大腸菌が原因の腸炎かどうかは、便の検査(培養検査という、細菌を育てる検査です)でわかります。便の中の大腸菌を詳しく検査して分類し、O-157・O-111などの番号をつけます。ベロ毒素が出ているかどうかも便の検査でわかります。培養検査は結果がでるのに2~3日かかります。
検査は肛門に綿棒をちょっといれて検査します。痛くはないですよ。便は持ってこなくて大丈夫です。血便などいつもと違う様子の便が出た場合には、デジカメなどで様子を撮ってきてくださると参考になります。

 

治療
胃腸炎症状だけで、特に合併症がない場合には、胃腸症状とそれによる脱水症状の治療、抗 生剤の投与が主体となります。細菌性腸炎では、いわゆる下痢止めは使いません。下痢を止めてしまうと、菌が長いこと腸の中にとどまってしまい、悪い影響を 与えることになってしまいます。整腸剤は、整腸剤の中の主成分である乳酸菌が病原菌を駆逐する、という効果を期待して投与されます。下痢嘔吐がひどく、脱 水になってしまった場合には、点滴などによる水分補給を行います。
溶血性尿毒症症候群(HUS)に対しては、腎不全の治療、脳浮腫の治療、出血傾向の治療、DIC(播種性血管内凝固症候群)の治療等を状態によって行います。毒素を血液から取り除く血漿交換、というのを行うこともあります。

★病原性大腸菌の家族内感染をふせぐために

  • 患者さんには、排便後の手洗いをよくしてもらいましょう。調理は下痢が治るまでは避けた方がよいです。
    トイレが便で汚れた場合には、かならず使い捨ての手袋などを着用して掃除し、消毒薬で処理します。トイレのドアノブや手洗い場の蛇口などもこまめに消毒薬で拭きます。
  • 下着に便が付着しているような場合には、よく水洗いしたあと消毒薬につけておき、他のものとは別に洗濯します。
  • 入浴は湯船につかるのは避けシャワーにしましょう。タオルを共用するのはやめます。
  • 乳幼児が患者さんの場合、おむつ替えは、新聞紙などをしき、便が周りを汚さないように気配りして行います。やはり使い捨ての手袋を着用しましょう。
 

厚労省のHPにも細かい対策についてのQ&Aが出ています。
参考にしてください。
腸管出血性大腸菌Q&A

しっかり加熱すれば、病原性大腸菌は死滅します。70℃1分間で死滅する、といわれています。たとえばハンバーグのように、中が生焼けになりがちな食品では、菌が残りやすいので要注意です。ユッケやレバ刺しなどの生肉の摂取は、極力避けるべきです。生野菜などはよく水洗いしましょう。野菜に付着した泥などで汚れた調理器具の洗浄も大切です。
2次感染では、患者さんの便中の菌が他の人の口の中に入って感染するので、患者さんとその周囲の人が手洗いなどを徹底して感染を防ぎましょう。
抵抗力の弱い子どもやお年寄りは重症化しやすいため特に注意が必要です。