症状一覧

2011年09月01日症状一覧

抗生物質(抗生剤)とかぜ

医院でもらう薬で、抗生物質(抗生剤)っていうのがありますね。
風邪の時に処方されることが多いですが、熱が高いのに処方されないこともあります。
受診したのに、なぜ抗生物質が処方されないのでしょうか。

抗生物質とは細菌を殺す薬です。
抗生物質を使うべき細菌感染症は、細菌性髄膜炎、細菌性肺炎、溶連菌感染症、百日咳、大腸菌などによる膀胱炎、とびひ、マイコプラズマ感染症(これは厳密には細菌感染症ではありませんが)などなど・・・・。
しかし、いわゆる<風邪>は、ウイルスによるものがほとんどですから、それだけ考えれば、抗生物質は風邪には効かない、ということになります。それなのに、なぜ風邪をひいたときに処方されるのでしょう?

風邪をひいたとき、ひきはじめは乾いた咳に透明な鼻水だったのが、数日後には痰がからんだり、鼻水が緑色になったりすることがありますね。時には、風邪の途中から、中耳炎になったりすることもあります。これは、ウイルス感染によって傷んだ粘膜に、のどや鼻に常在していた細菌などが取りついて繁殖し、悪さをしている結果なのです。このような状況を、2次感染がおきた、などと表現します。この2次感染には抗生物質が有効です。風邪をひいたとき、抗生物質が処方されるのはこれを治療するためなのです。

抗生物質は、いま、とてもたくさんの数の薬が使われていますが、系統としては、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、ニューキノロン系、ぺネム系、テトラサイクリン系、などに分けられます。それぞれの薬の効き方には特徴があり、菌によって最適な抗生物質が違います。考えられる病原体、症状、疾患部位などによって抗生物質を選択し、体重に合わせて処方します。

本来ならば、どんな細菌によって病変が起こされているのか調べ、その細菌にどの薬がいちばんよく効くのか調べてから処方すべきなのですが、結果が出るまでには数日かかりますので、実際には症状から起炎病原体を予測して処方することになります。

よく、一つの抗生物質の効きが良くないとき、違うものに変えましょう、というとそんなに強い薬になって大丈夫ですか、という質問をもらいます。
お母様達のご心配はわかりますが、薬を変える、というのは、強さをかえる、ということではなくて、種類を変えるということなのです。
よく効く抗生物質、というのは、薬が強い(つまりは副作用も強いというイメージがあるのだと思うのですが)のではなく、病気を起こしている細菌にあった抗生物質、という意味ですから、心配はいりません。

 

いま、小児科耳鼻科で問題になっているのが抗生物質の効かない耐性菌の増加です。
抗生物質が多用されてきた患者さんでは、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの呼吸器感染症の代表格である細菌が耐性菌になっていることが多いのです。
自力でなおせる可能性のあるちょっとした風邪で、はじめから抗生物質をのんでいると、抗生物質の効きにくい菌が体に住み着いてしまい、本当に抗生物質が必要なときに薬の効果が悪くて治療に苦労することが多いです。
たとえば、耳鼻科の先生方は、鼓膜を切開してもすぐ再発してしまう中耳炎に非常に難渋されています。また、気管支炎や副鼻腔炎なども、治りにくくなります。
さらに、命にかかわる細菌感染症である敗血症や髄膜炎などが、耐性菌によっておこってしまうと、抗生剤による治療の効果が出ず、命を救えない場合もあります。
ですから、抗生物質は、できる限り投与回数を減らしたい、と思うのです。

受診されるお母様方に、抗生物質は出してもらえないのですか、ときかれることがよくあります。
人間の体には免疫力が備わっており、自力で細菌やウイルスを殺すことができます。細菌感染があっても、抗生物質を飲まずに治ることがほとんどです。
ですから、耐性菌の問題を考えると、予防的に抗生物質を処方することは控え、どうしても必要なときにだけ飲んでもらうようにしたほうが、そのお子さんのためになると思い、抗生物質の処方は最低限にしています。
それだといつも悪くなってあとが大変、などという方は医師によく相談してくださいね。

鼻水や痰をたまったままにしておくと、細菌が繁殖して2次感染がおこりやすくなります。
風邪をこじらせないように、鼻をよくかんだり、空気を加湿したり、水分を多めにとってよく痰を出す、ゆっくり休養する、などの補助療法をできるだけためしてみてください。